不妊治療コラム
自分に合ったピルってどれだろう?
低用量ピルには、保険適用されるものと、保険適用外の自費処方されるものがあります。また、処方してもらうには病院での対面診療が基本となりますが、最近よく目にするオンライン診療のピル処方やさらにはネット通販などもあります。それらの違いをよく理解して、自分に合ったピルを選択しましょう。
1. 保険適用のピルと自費処方のピル
ピルはこれまでに、避妊用として使用されてきた歴史があります。その中で、避妊用ピルの内服することで、生理痛の改善、月経量の減少、月経困難症の改善など副効様用があることが分かってきました。そこで、副効用を主とした治療薬としてのピルが使用されるようになりました。
つまり、避妊用ピルと保険適用ピルはいずれも、中身は低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬となり実質的には同一のものです。海外では全てのピルを一括して使用されていますが、日本においては自費と保険で分けて取り扱っている特殊な事情があります。(2. ピルの種類 参照)インターネットなどには、保険適用ピルには避妊効果がないといった情報が散見されますが、その情報には注意が必要です。いずれのピルも理想的な使用においては他の避妊法と比較して十分効果が高いと言えます。英国FSRH診療指針では、全てのピルの避妊効果は同等と結論づけています1)。
1)Faculty of Sexual & Reproductive Healthcare: FSRH Clinical Guideline: Combined Hormonal Contraception(2019)(Guideline)
2. ピルの種類
日本は、国民皆保険制度のため、自費と保険を明確に区分して取扱います。低用量ピルも例外ではなく、自費ピルと保険ピルが厳密に区分して使用されています。自費ピルはOCと呼び、避妊を目的として、保険適用されるピルはLEPと呼び、生理痛、月経前症候群、過多月経等の治療薬として処方されます。
自費/保険適用 | 製品名 | 会社名 | 服用開始日 | 錠数 | エストロゲン 1周期あたりの総量(mg) | プロゲスチン 1周期あたりの総量(mg) | 配合パターン | 相 |
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保険適用 | ルナベル®配合錠LD | 日本新薬,富士製薬, ノーベルファーマ | DAY1~5スタート | 21 | EE 0.735 | NET 21.0 | 21日間 Img NET 0.035mg EE | 一相性 |
フリウェル®配合錠LD | あすか製薬,沢井製薬, 武田薬品,東和薬品, 持田製薬 |
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ルナベル®配合錠ULD | 日本新薬,富士製薬, ノーベルファーマ | EE 0.420 | 21日間 Img NET 0.020mg EE |
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フリウェル®配合錠ULD | あすか製薬,沢井製薬, 武田薬品,東和薬品, 持田製薬 |
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ヤーズ®配合錠 | バイエル薬品 | DAY1スタート | 28 (実薬24) | EE 0.480 | DRSP 72.0 | 24日間 3mg DRSP 0.020mg EE |
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ヤーズフレックス®配合錠 | バイエル薬品 | 28 | EE 0.480 (24日間) EE 2.4 (120日間) | DRSP 72.0 (24日間) DRSP 360 (120日間) | 24日間/120日間 3mg DRSP 0.020mg EE |
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ジェミーナ®配合錠 | あすか製薬,ノーベルファーマ | DAY1~5スタート | 21/28 | EE 0.420 (21日間) EE 1.54 (77日間) | LNG1.89 (21日間) LNG 6.93 (77日間) | 21日間/77日間 0.09mg LNG 0.020mg EE |
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自費 | マーベロン®21 マーベロン®28 | MSD | DAY1スタート | 21 28 (実薬21) | EE 0.630 | DSG 3.15 | 21日間 0.15mg DSG 0.03mg EE |
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ファボワール®錠21 ファボワール®錠28 | 富士製薬 | |||||||
シンフェーズ®T28 | 科研製薬 | Sundayスタート | 28 | EE 0.735 | NET 15.0 | 9日間 1mg NET 0.035mg EE 7日間 0.5mg NET 0.035mg EE 5日間 0.5mg NET 0.035mg EE | 三相性 | |
アンジュ®21錠 アンジュ®28錠 | あすか製薬,武田薬品 | DAY1スタート | 21 28 | EE 0.680 | LNG1.925 | 10日間 5日間0.125mg |
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トリキュラー®錠21 トリキュラー®錠28 | バイエル薬品 | |||||||
ラベルフィーユ®21錠 ラベルフィーユ®28錠 | 富士製薬 |
<略語>
エストロゲン EE:エチニルエストラジオール
プロゲスチン製剤 NET:ノルエチステロン LNG:レボノルゲストレル
DSG:デゾゲストレル DRSP:ドロスピレノン
避妊方法とパール指数
避妊方法 | 理想的使用 | 一般的使用 |
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コンドーム | 2 | 18 |
経口避妊薬 | 0.3 | 9 |
銅付加IUD | 0.8 | 0.6 |
LNG-IUS | 0.2 | 0.2 |
J Trussell : Contraception failure in the United States: Contraception.2011 Mar 12.
ピル種類別のパール指数
(1)NET /EE製剤 21日投与:2.98 24日投与:1.82(0.59~4.25)
(2)LNG/EE製剤 三相性:0.29
(3)DSG/EE製剤 0.99
(4)DRSP/EE製剤 0.41~2.2
3. ピルの効果と副作用
~効果~
<月経痛の改善や月経量の減少>
子宮内膜の増殖を抑制することや、子宮内膜からのプロスタグランディンの産生を抑制することで、月経痛の改善や月経量の減少が期待されます。
<PMSとPMDDの改善>
月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)も有効である可能性について報告されています。PMSやPMDDの原因の詳細は不明ですが、ドロスピレノン含有のピルが有効といわれています。
~副効用~
<卵巣がんのリスク低下>
排卵機能が抑制されるため、卵巣がん発症のリスクを下げると言われています。服用期間が長くなると、リスクはより低下するともいわれています。
<子宮体がんのリスク低下>
子宮内膜細胞はエストロゲンの作用で増殖するため、その効果に拮抗するプロゲスチンが含有されているピルは子宮体がんのリスクを低下させると考えられています。服用期間が長くなると、リスクはより低下するともいわれています。
<ニキビの改善>
ホルモンバランスの調整によりニキビ、肌荒れが改善されることがあります。
<月経不順の改善>
ホルモン調節ができるため、月経不順が改善します。また、社会生活に合わせて月経開始日を変更し月経移動させることができます。
<マイナートラブル>
主なものとして、不正性器出血(3.8%)、悪心(3.4%)、乳房痛(1.1%)、頭痛(0.7%)などがあります。
<動静脈血栓塞栓症のリスク>
重大な副作用として血栓症があります。ピル非使用者と比較してリスクは3~3.5倍増加します。その頻度は、内服開始3ヶ月が最も高く、高年齢、喫煙、肥満などはリスク上昇因子とされています。高血圧や喫煙女性は心筋梗塞リスクが上昇するため、禁忌となる症例もあります。
4. 処方について
ピルは、上記のように、様々な効が期待できる一方で、重大な副作用もあります。メリット・デメリットをきちんと理解して服用することが重要なため、医師による処方が必須です。
平成30年にオンライン診療の適切な実施に関する指針(令和4年1月一部改訂)を厚生労働省が発表したことにより、オンライン診療が日常的にも普及してきました。最近では、ピル処方もオンライン診療で処方できるようになっています。忙しい方や新型コロナウイルス感染対策の観点からも非常に有用な手段といえます。ただし、チャット型の場合は注意が必要です。誰が返信しているのかが分からないため、本当に医師が診察しているのか不明確なケースがあります。厚生労働省の指針には、「オンライン診療は、文字、写真および録画動画のみのやり取りで完結してはならない」としています。チャットのみのオンライン処方をしている場合には十分注意してください。
オンライン処方とは別に、ネット通販も存在します。パソコンやスマホで完結するため、違いが分かりにくいこともありますが、医師の診療が無いネット通販の低用量ピルには以下のようなトラブルもあり、非常に危険です。
<違法かもしれない>
通販の場合、ほとんどが個人輸入で販売されているものです。日本の法律では、医薬品を個人輸入する場合、大前提は自分自身で使用する場合のみとしています。また、医薬品医療機器等法に違反する輸入でないことを証明する「薬監証明」を取得していることが必要ですが、インターネット通販の場合、この「薬監証明」を取得しているか不明です。違法に医薬品を売っているケースもあり得ます。また、個人輸入したアフターピルをフリマアプリで売買し逮捕された人もいます。
<偽薬かもしれない>
ネット通販のトラブルとして、破損していたり、ホルモン配合量が不明のため副作用が強く出た、ネットの画像と違う商品が送られてきたという例があります。
これらのことから、やはり安全でない可能性があるため、いくら安いといっても、ネットで購入することは非常に危険であり、決して薦められるものではありません。私たちは医療機関で処方されたピルを使用されることを強くおすすめします。
文責:副院長 井上 令子