診療内容
不育症の検査・治療(当院でできること)
不育症とは
妊娠はするけれど流産・死産を繰り返して結果的に赤ちゃんを得られない状態を不育症といいます。これまでの妊娠で2回以上連続した流産、妊娠10週以降の原因不明の流産・死産をご経験されたご夫婦が対象です。
流産は妊娠の約15%に起きます。2回連続して流産が起こる確率は4.2%、3回連続して流産が起こる確率は0.9%です。また、流産を2回繰り返す「反復流産」、3回以上の「習慣流産」も不育症の範囲に含まれます。
妊娠しても、流産・死産を繰り返してしまう不育症は精神的に非常に辛い状態です。そのストレスは計り知れません。たとえ妊娠しても喜びよりも不安の方がはるかに大きなものとなってしまいます。その不安を少しでも取り除けるように私たちが力になります。
検査を始めるタイミングの考え方
流産の原因の多くは胎児(胚)の染色体異常によるものですが、
流産手術時に絨毛染色体検査を行い、染色体が正常だった場合は、母体側の要因(子宮形態異常、血栓素因、内分泌異常、感染症、免疫学的異常等)を調べることをおすすめします。
当院で実施可能な不育症関連検査
1)胚(受精卵)に関する検査
PGT-A / PGT-SR(着床前遺伝学的検査)
胚を子宮に戻す前に、胚の染色体(主に数や構造)を調べる検査です。
対象となる方
- ART(体外受精等)を行っている方で、胚移植を2回以上行っても妊娠しない
- 子宮内妊娠が確認された後に、流産を2回以上繰り返した
- 35歳以上の不妊症の方
- ご夫婦のいずれか(または双方)に染色体構造異常がある方
2)子宮内の形態・病変の評価
子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、腺筋症、子宮形態異常(中隔子宮など)は、流産の原因となることがあります。
中隔子宮や重複子宮などの先天的な形態異常と、子宮粘膜下筋腫等の後天的な異常があります。超音波検査や子宮鏡検査、子宮卵管造影検査、骨盤MRI検査等を組み合わせて診断します。

子宮鏡検査・子宮鏡手術
子宮の入口から細いカメラを入れて、子宮内腔を直接観察します。
病変が確認された場合、当院で対応可能な内容であれば、外来手術を行います。
費用(保険診療・目安)
- 子宮鏡検査:約3,000円
- 子宮鏡下子宮内膜ポリープ摘出術:約20,000円
- 子宮鏡下子宮内腔癒着切除術:約56,000円
※麻酔・薬剤料は別途
子宮卵管造影検査
子宮内に造影剤を入れて経腟超音波下に観察を行い、
子宮形態や卵管の通過性(卵管水腫の有無)・癒着などを評価します。
費用(保険診療・目安):約14,000円
MRI検査(必要時)
経腟超音波で子宮・卵巣・卵管に病変が疑われる場合、MRIでより詳しく評価します。当院で適応を判断し、近隣の画像診断施設または高次医療機関へご紹介します。
3)子宮内膜環境(細菌叢)に関する検査
子宮内膜の環境が整っていないことが、着床不全や流産・早産に関与すると考えられています。
当院では、EMMA / ALICE(子宮内細菌叢検査)を実施できます。
※保険で高度生殖補助医療を行っている方は「先進医療」として、その他の方は自費で実施します。
EMMA / ALICE(子宮内細菌叢検査)
子宮内には善玉菌としてラクトバチルスが存在し、妊娠に望ましい環境づくりに関与するとされています。菌のバランスが崩れると、着床障害や流早産との関連が指摘されています。
- EMMA:ラクトバチルスが十分かを評価し、少ない場合は補充を検討します。また、有害菌が多い場合は菌種に応じて抗菌薬治療を行います。
- ALICE:慢性子宮内膜炎に関連する病原菌の有無を調べ、必要に応じて適切な抗菌薬治療を行います。
(慢性子宮内膜炎は反復着床不全の一定割合で認められると報告されています。)
結果までの目安:検査後 約3週間
費用(自費):66,000円
4)免疫バランスに関する検査
免疫学的因子が、着床不全や流産に関与する可能性があるとして検討されています。
当院では Th1/Th2バランス、ビタミンD を検査できます。
Th1/Th2(免疫バランス)
胚(胎児)は母体にとって“非自己”であり、妊娠維持には免疫寛容が重要です。
反復着床不全や不育症の一部では、Th1優位、Th1/Th2比高値が認められ、胚に対する拒絶反応が関与する可能性が報告されています。
Th1/Th2比が高い場合、当院ではタクロリムス内服で免疫バランスの調整を検討します。

結果までの目安:採血後 約3週間
費用(自費・目安):約5,500円
ビタミンD
ビタミンDは骨の健康だけでなく、妊娠の成立や妊娠経過の安定にも関与することが報告されています。
妊娠との関係
- 妊娠前の血中ビタミンD濃度は、胚の着床と関連していることが報告されています
- 妊娠中のビタミンD不足は、
- 妊娠高血圧症候群
- 妊娠糖尿病
- 流産・不育症
などのリスク因子となる可能性が指摘されています
血中ビタミンD濃度の目安
血中の 25(OH)ビタミンD 濃度は、以下のように評価されます。
- 30 ng/mL以上:充足
- 20〜30 ng/mL:不足
- 20 ng/mL未満:欠乏
日本人女性では、ビタミンD不足・欠乏の方が比較的多いことが知られています。当院では、血液検査でビタミンD濃度を確認したうえで、不足する方にはビタミンDサプリメント 25μg/日以上 の摂取をおすすめしています。
※必要量は検査結果や体調に応じてご案内します。
結果までの目安:採血後 約1週間
費用(自費・目安):約5,500円
5)血栓性素因・凝固系(血液の固まりやすさ)の評価
血栓傾向があると胎盤の血流障害が起こり、流産や胎児死亡につながる可能性があります。血液中の凝固因子という血液を固めて止血をする働きをする因子に異常があると、血の塊である血栓がつくられやすくなります。赤ちゃんを育てるために必要な血管内に血栓が形成されると、必要な養分を赤ちゃんへ届けることができなくなることがあります。
とくに抗リン脂質抗体症候群は、不育症において抗凝固療法の有効性が示されている代表的な病態で、診断に必要な一部検査は保険で実施できます。
当院では、不育症の方を対象に
- 保険で実施できる抗リン脂質抗体関連検査
- 追加で評価する自費の血栓性素因・凝固検査
の両方に対応しています。
また、福岡県では(2025年2月25日時点)自費で行う不育症検査・治療費の一部が助成対象(上限あり)となっています。詳細は福岡県の制度をご確認ください。
福岡県助成金(福岡県庁ホームページ)
保険診療
※不育症と診断された方が対象
- 抗カルジオリピン抗体 IgM:680円
- 抗カルジオリピン抗体 IgG:680円
- ループスアンチコアグラント(dRVVT):800円
- 抗核抗体:730円
- 第Ⅻ因子活性:1,040円
- プロテインS活性:860円
- プロテインC活性:1,060円
- 自費診療
- 抗カルジオリピンβ2GPI抗体:5,500円
- 抗PE抗体:6,600円
- β2GPIネオセルフ抗体:38,500円(詳細は先進医療の記載へ)
結果までの目安:採血後 約3週間
検査結果に応じた治療
- 一部の項目が陽性の場合:低用量アスピリン療法(自費)を検討
- 抗リン脂質抗体症候群と診断された場合:低用量アスピリン療法・ヘパリン療法(保険)を行います
6)染色体に関する検査
流産絨毛染色体検査(胎児染色体検査)
流産の原因の多くは、胎児(受精卵)の染色体異常によるものと考えられています。
流産絨毛染色体検査とは
流産した際に、子宮内に残っている絨毛(胎盤を構成する組織)を採取し、
胎児の染色体に数や構造の異常がないかを調べる検査です。
染色体異常の考え方
- 染色体の数の異常
多くの場合、受精卵が形成される過程で偶発的に生じた異常と考えられます - 染色体の構造異常
この場合、ご夫婦のいずれかが
「均衡型相互転座」などの染色体構造異常を持っている可能性があります
ご夫婦のどちらかに染色体構造異常があると、正常な受精卵ができにくくなり、流産を繰り返す原因となることがあります。
→ 検査結果に応じた次のステップ
- 染色体異常が認められた場合
→ ご夫婦の染色体検査を行い、今後の妊娠方針を検討します - 染色体異常が認められなかった場合
→ 染色体以外の原因、
例:抗リン脂質抗体症候群(血栓性素因)などについて追加検査を行います
結果までの目安:提出後 約4週間
費用
- 保険:15,000円
- 初回流産で希望される場合(自費):約55,000円
夫婦染色体検査(G-banding)
ご夫婦の採血により、染色体の数・構造異常の有無を調べます。
対象(目安)
- 胎嚢確認後の流産を2回以上経験した方(化学的流産は含まない)
※異常が認められた場合は、遺伝カウンセリング(連携施設にて)を行います。
結果までの目安:採血後 約3週間
費用:33,000円/人
7)内分泌・代謝の評価
内分泌・代謝異常は流産リスクと関連することが報告されています。
甲状腺機能(TSH / FT4 / 抗TPO抗体)
甲状腺機能低下症は、流産・早産・胎児発育への影響が指摘されています。
結果までの目安:採血後 約1週間
費用(自費・目安):約4,000円
糖代謝(HbA1c)
糖尿病は流産との関連が指摘されています。
結果までの目安:採血後 約1週間
費用(自費・目安):約600円
受診の流れ
- 既往(流産回数・週数・手術歴)を確認
- 必要に応じて、胎児側(絨毛染色体)と母体側(子宮・血液・内分泌など)を段階的に評価
- 結果をもとに、次回妊娠に向けた治療・管理方針をご提案します