不妊治療コラム
COLUMN
採卵とは ART04
採卵について
卵胞が十分に育った段階で、経腟超音波ガイド下に腟から細い針を用いて卵巣の卵胞を吸引し、卵子を採取します。
当院では、採卵時の痛みや不安をできるだけ少なくするために、
静脈麻酔を使用します。処置中は眠っているような状態で行うことができ、多くの方が「気づいたら終わっていた」と感じられる程度です。
安全性を第一に、患者様が安心して採卵を受けられる環境づくりに努めています。
受精の方法について
体外受精では、卵子と精子を体外で出会わせ、受精卵(胚)を作ります。
受精の方法には大きく分けて「媒精法(通常体外受精)」と「顕微授精(ICSI)」の2種類があります。
卵子や精子の状態に応じて、最も適した方法を選択します。
■ 媒精法(Conventional IVF)
媒精法とは、体外に取り出した卵子に精子をふりかけ、自然な受精を促す方法です。卵子のまわりに数万個の精子を加え、自然な受精を待ちます。
◎ 特徴
- 自然受精に近い方法で、卵子と精子の選択能力が保たれる
- 精子の運動率や数が十分にある場合に適している
- 受精の様子を観察できるため、受精障害の有無を評価できる
◎ 適応となる方
- 精子の数や運動率が正常範囲にある方
- 過去の治療で受精障害がみられなかった方
- 卵子の成熟度が良好な方
■ 顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)
顕微授精とは、顕微鏡下で1個の精子を直接卵子の中に注入する方法です。
1990年代に臨床導入されて以降、重度男性不妊症に対して妊娠の可能性を大きく広げた技術です。
- 特徴
- 1個の卵子に対して1個の精子を注入するため、受精の確実性が高い
- 精子数が少ない場合や運動性が低い場合でも受精が可能
- 精巣内精子(TESE精子)や凍結精子にも対応できる
- 適応となる方
- 重度乏精子症・精子無力症・奇形精子症など男性因子不妊の方
- 体外受精で受精不成立または低受精率だった方
- 凍結卵子を使用する場合(卵子の膜が硬く受精しにくい)
■ 媒精法と顕微授精の比較
| 項目 | 媒精法(通常体外受精) | 顕微授精(ICSI) |
| 方法 | 卵子に多数の精子を加え自然受精を待つ | 1個の精子を卵子に直接注入 |
| 精子条件 | 正常~軽度異常 | 中等度~重度異常でも可 |
| 受精率 | 60~80%前後 | 70~90%前後 |
| メリット | 生理的な選択が起こる・自然受精に近い | 受精が確実・男性因子に有効 |
| 注意点 | 受精障害が起こる場合あり | 特殊操作のため技術的負担あり 媒精法より費用がかかる |
■ 当院での方針
当院では、卵子・精子の状態や過去の受精結果をもとに、
培養士・医師が協議のうえで最も妊娠につながる方法を選択します。媒精法と顕微授精は、どちらも体外受精における重要な受精技術です。
卵子・精子の状態に応じた適切な方法を選ぶことで、
より高い妊娠率と安全性を両立させることができます。
- 初回は媒精法を基本とし、受精障害が認められた場合はICSIへ切り替え
- 精液所見が重度異常の場合は、初回からICSIを推奨
- これまでの治療歴から当院では、卵子や精子の状態に応じて、媒精法(通常体外受精)と顕微授精(ICSI)を使い分ける「スプリット法(split法)」を行うことがあります。スプリット法とは、同じ採卵で得られた卵子の一部を媒精法で、残りを顕微授精で受精させる方法です。
- 膜構造を用いた生理学的精子選択術法などを併用し、受精環境を最適化