不妊治療コラム
COLUMN
当院のタイムラプスインキュベーターが新しくなります
当院のタイムラプスが新しくなります。
タイムラプスインキュベーター(EmbryoScope)とAIスコアリング(iDAScore)の概要
従来の胚評価法は、培養中の胚を一定時間ごとに観察し、その形態(形、大きさ、細胞数、フラグメントなど)をもとにグレードを判定する方法が主流でした。しかしこの手法には、以下のような限界があります:
- 評価が胚培養士の経験に依存し、主観的なばらつきが生じる。
- 一定のタイミングでしか観察できないため、多核細胞の一過性の出現などの重要な異常を見逃す可能性がある(多核細胞の出現は最大70%以上見落とされると報告:Ergin et al., 2014)。
こうした背景を受け、タイムラプスインキュベーター(例:EmbryoScope)が開発されました。これは以下のような特徴を持つ装置です:
EmbryoScopeの特徴
- タイムラプス撮影機能
胚を培養しながら、一定間隔で自動撮影を行い、胚の発育過程を連続的に記録します。これにより、従来の観察法では見逃されやすかった異常(例:多核化や分割の遅延)を正確に把握することが可能です。 - 一貫した培養環境の維持
観察のために培養器から取り出す必要がなくなるため、温度・pH・ガス環境の安定が保たれ、胚へのストレスが軽減されます。 - クリーンな環境設計
HEPAフィルターおよびVOCフィルターが搭載されており、化学物質や微粒子を除去し、胚にとって最適な環境が維持されます。
iDAScore:AIによる胚評価の革新
EmbryoScopeで得られたタイムラプス画像をもとに、iDAScore(Intelligent Data Annotation Score)というAIモデルが胚の評価を行います。
- アノテーション不要の評価:胚培養士が個別に発育段階にラベル付けする必要がなく、AIが自動で発育パターンを解析。
- 胚のスコアリング:ライブバース(出生)や臨床妊娠との関連性をもとに、胚にスコアをつけ、移植胚の選択に利用されます。
- 再現性と客観性の向上:ヒトの主観によるばらつきを排除し、標準化された評価を実現します。
研究的背景とエビデンス
2022年に発表された後方視的研究(J Assist Reprod Genet. 2022;39(9):2089–2099.)では、iDAScoreのスコアが出生率や新生児予後と有意に相関することが示されており、臨床的有用性が支持されています。
まとめ
EmbryoScopeとiDAScoreの導入により、胚評価の精度・客観性が向上し、移植胚選定の質を高めることが期待されています。これにより、より妊娠成立率・出生率の向上をめざす不妊治療において、AIとタイムラプス技術の融合が今後の標準となる可能性があります。
引用:J Assist Reprod Genet. 2022;39(9):2089–2099. Figure 2.
主なポイント
- すべての年齢層で一貫して、iDAScoreが高い胚ほど出生率が高い
特に若年層(<35歳)では、最高スコア群で59.3%、最低スコア群で**24.7%**と、2倍以上の差があります。 - 年齢が上がるにつれて、全体的に出生率は低下
ただし、同一の年齢層内でもiDAScoreの違いで大きく出生率が異なります(例:41–42歳でも青バー=28.0%、黄バー=7.2%)。 - 全体としてもスコアが高いほど有意に出生率が上昇(P < 0.05)
最上位群(青):43.1%
最下位群(黄):9.3%
この図が示す臨床的意義
- iDAScoreは年齢に関わらず出生率予測に有効
- 年齢だけではなく、AIによる胚評価が移植胚の選定における信頼性の高い指標となることが示唆されます。
- 特に判断が難しい40代女性の症例において、スコアの有無は出生可能性を左右する重要因子になり得ます。
タイムラプスインキュベーターの進化とAI技術の融合により、今後さらに高精度な胚選定が可能となり、妊娠率の向上が期待されます。