不妊治療コラム
ARTデータブック2023年について
2023年ART統計からみる日本の生殖医療の現状
日本産科婦人科学会より「ARTデータブック2023」が公表され、2023年における我が国の体外受精(ART)治療の最新統計が明らかとなりました。
総治療周期数は 561,664周期 と、これまでで最も多くの治療が行われた年となりました。また、ARTによって誕生した児は 85,048人 と過去最多を更新し、日本の生殖医療が引き続き重要な役割を果たしていることが示されています。
登録・調査小委員会 – 公益社団法人 日本産科婦人科学会 2023年ARTデータブック より
特筆すべきは、出生児のうち 95%(80,774人) が凍結融解胚移植によって誕生している点です。胚凍結技術および融解胚移植の成績が安定し、臨床現場で広く浸透していることが改めて確認されました。
さらに、ART出生児は日本の年間出生数(約75万人)の約 11.3% を占め、約9人に1人 がARTにより誕生している計算となります。これは、国内における不妊治療の社会的意義が年々拡大していることを示すものです。
登録・調査小委員会 – 公益社団法人 日本産科婦人科学会 2023年ARTデータブック より
一方で、晩婚化や晩産化に伴う卵巣機能低下、患者背景の多様化など、治療成績に影響する要因は複雑化しています。医療機関には、エビデンスに基づく適切な治療戦略の選択、個別化医療の推進、情報提供の透明性と患者支援体制の充実が求められています。
ARTはすでに“特別な医療”ではなく、社会の出生と家族形成を支える重要な基盤医療となりつつあります。今後も技術革新と倫理的配慮の両立を図りながら、すべての患者に安全で質の高い生殖医療を提供し続けることが重要です。


登録・調査小委員会 – 公益社団法人 日本産科婦人科学会 2023年ARTデータブック より