不妊治療コラム
COLUMN
調節卵巣刺激(COS)の基本 ART03
調節卵巣刺激(Controlled Ovarian Stimulation:COS)とは
調節卵巣刺激とは、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)を行う際に、卵巣をホルモン剤で刺激し、複数の卵子を同時に成熟させる方法です。
通常、自然周期では1回の排卵で1個の卵子しか排出されませんが、調節卵巣刺激によって複数の卵子を育てることで、妊娠の可能性を高めることができます。
■ 調節卵巣刺激の目的
- 採取できる卵子の数を増やすことで、受精卵(胚)の確保率を高める
- より良好な胚を得て、妊娠率を向上させる
- 胚の凍結保存を行い、次周期以降に移植の選択肢を広げる
■ 具体的な方法
患者様の卵巣機能や年齢、治療歴などに応じて、刺激の強さや薬剤の種類を調整します。
主に以下の3つの方法があります。
① 高刺激法(GnRHアゴニスト法・PPOS法・アンタゴニスト法)
ホルモン剤(FSHやhMGなど)を毎日注射して、多くの卵胞を一斉に成熟させる方法です。
排卵のコントロールを行いながら、一度に10個前後の卵子を採取できる可能性があります。
→ 若年で卵巣予備能が良好な方、複数胚の確保を目指す方に適しています。
② 中刺激法・低刺激法
飲み薬(クロミフェンやレトロゾール)と少量の注射薬を併用して、
身体への負担を抑えながら複数の卵胞を発育させる方法です。
→ 卵巣予備能が低下している方や、過剰反応を避けたい方に適しています。
③ 自然周期法
薬剤をほとんど使用せず、自然な排卵を利用して1個の卵子を採取します。
→ 身体への負担が少なく、ホルモン値の乱れや副作用を避けたい方に選ばれる方法です。
■ 治療の流れ
- 月経3日目ごろから卵胞刺激ホルモン(FSH・hMGなど)を注射し、卵胞の発育を促します。
- 超音波検査や血液検査で卵胞の大きさとホルモン値を確認します。
- 卵胞が十分に成熟した段階で、排卵誘発注射(hCGまたはGnRHアゴニスト)を投与します。
- 約35~37時間後に採卵を実施します。
■ 調節卵巣刺激のリスクと注意点
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
過度に卵胞が発育し、腹水や腹部膨満感が生じることがあります。
→ 当院ではホルモン値を細かく確認し、OHSSを予防する安全な刺激法を選択しています。 - ホルモン値の変動による体調変化
頭痛・眠気・乳房張りなどが一時的にみられることがあります。 - 卵巣機能や年齢により反応に個人差があるため、刺激法は毎周期ごとに調整します。
■ 当院の取り組み
当院では、「卵巣への負担を最小限に、卵の質を最大限に」を方針とし、
患者様の体質やホルモン状態に合わせたオーダーメイド刺激を行っています。
- 年齢・AMH値・治療歴に基づいた個別プロトコルの設計
- 超音波・ホルモン測定によるリアルタイム管理
- 必要に応じて自然周期や低刺激法への切り替えも柔軟に対応
調節卵巣刺激は、ART(生殖補助医療)の中でも最も重要なステップのひとつです。
「卵をたくさん取ること」ではなく、「妊娠につながる質の良い卵を得ること」を目指して、当院では最適な刺激方法をご提案しています。