不妊治療コラム

COLUMN

ARTの適応(どんな人が対象?) ART02

ARTは誰にでも必要な治療ではありません。

しかし、卵管の異常・精子の問題・子宮内膜症・年齢因子など、自然妊娠が難しい背景がある場合、ARTが大きな助けとなることがあります。

このページでは、ARTの主な適応となる症状や状態について詳しくご紹介します。


 ARTの適応について 

■ 1. 卵管因子(Tubal Factor)

卵管の閉塞や癒着などにより、卵子と精子の出会いが妨げられる場合。
代表的な疾患・状態には以下が含まれます。

  • 両側卵管閉塞または高度狭窄
  • 卵管采癒着、卵管水腫(hydrosalpinx)
  • 卵管切除後や避妊手術後の再建困難例

体外受精(IVF)は卵管を介さず受精を行うため、第一選択となります。

■ 2. 男性因子(Male Factor)

精子の数・運動性・形態などに異常があり、自然受精が難しい場合。
精液検査におけるWHO基準を下回る場合や、受精障害が確認された場合が対象です。

  • 精子濃度・運動率の低下(乏精子症・精子無力症)
  • 精子形態異常(奇形精子症)
  • 精子が極端に少ない(高度乏精子症)
  • 射精障害、精巣内精子採取術(TESE)後の使用精子

顕微授精(ICSI)の適応となることが多いです。

■ 3. 原因不明不妊(Unexplained Infertility)

検査で明確な異常が認められないにも関わらず、タイミング療法・人工授精でも妊娠しないケース。
受精・分割・着床のいずれかに問題があることが多く、ARTによりそれらの過程を可視化できます。

IVFによって、受精の有無・胚発育の状態を確認し、次の治療方針に生かすことができます。

■ 4. その他

◎ 子宮内膜症・骨盤内癒着(Endometriosis / Pelvic Adhesion)

進行した子宮内膜症や手術後の癒着では、卵管周囲の環境や卵子の取り込み機能が障害されるためARTの適応となります。

  • 高度の子宮内膜症(ASRM分類 Stage III~IV)
  • ダグラス窩閉鎖、卵巣チョコレート嚢胞合併
  • 年齢因子・卵巣予備能低下(Age-related / Diminished Ovarian Reserve)

女性の加齢とともに卵子の数・質は低下し、自然妊娠率は35歳を境に急激に減少します。また、AMH(抗ミュラー管ホルモン)低値など、卵巣予備能の低下が確認された場合も適応となります。

  • 35歳以上で半年以上の不妊
  • 40歳以上で妊娠を希望
  • AMH低値、FSH高値など卵巣機能低下例

時間的要素を考慮し、ARTによる早期ステップアップが推奨されます。

■ 参考文献・ガイドライン

  • 日本産科婦人科学会「生殖補助医療に関する見解および実施に関する細則」(2023年改訂)
  • 日本生殖医学会『不妊症取扱い規約 第4版』(2022)
  • ESHRE: Guideline for medically assisted reproduction (2023)
  • ASRM: Evaluation and treatment of infertility (Fertil Steril 2021;116:1250–1264)