不妊治療コラム

COLUMN

着床前診断について

着床前遺伝学的検査とは

着床前遺伝学的検査(以下、PGT)とは、体外受精で得られた受精卵(胚)を子宮に戻す前の段階で、その遺伝情報を調べる検査です。
体外に取り出した卵子を精子と受精させ、受精卵を胚盤胞まで培養した後、その胚盤胞の一部の細胞を採取(生検)し、染色体の数や構造、または特定の遺伝子異常を解析します。
この検査により、染色体異常や遺伝性疾患の可能性が低い胚を選択して移植することが可能となり、流産の減少や妊娠の成立率向上が期待されます。

当院は、日本産科婦人科学会のPGT認定施設として、倫理的配慮のもとに適切な適応の患者様に対してPGTを実施しています。

PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy)

着床前遺伝学的検査(数的染色体異常検査)

概要

PGT-Aは、胚の染色体数の異常(数的異常)を調べる検査です。
染色体の数に異常がある胚は、着床しにくかったり、妊娠しても流産しやすいことが知られています。
検査によって染色体数が正常な胚を選択することで、妊娠率の向上・流産率の低下を目指します。

対象となる方

次のいずれかに該当する場合にPGT-Aの適応となることがあります。

  1. 胚移植を2回以上行っても妊娠に至らない方
  2. 子宮内妊娠が確認された後、流産を2回以上繰り返している方
  3. 女性の年齢が35歳以上の方

PGT-Aは、学会の規定に基づいて慎重に適応を判断し実施します。

検査の目的

  • 染色体異常のない胚を選択し、流産リスクを軽減する。
  • 妊娠が成立しにくい要因を明らかにし、効率的な治療戦略を立てる。
  • 年齢に伴う染色体異常の増加に対応し、安全な妊娠・出産の可能性を高める。

PGT-SRPreimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements

着床前遺伝学的検査(構造的染色体異常検査)

概要

PGT-SRは、ご夫婦のどちらかが染色体の構造異常(転座・逆位など)を持っている場合に行う検査です。
染色体構造に異常があると、受精卵に部分的な過剰や欠損が生じ、流産や着床不全の原因となることがあります。
PGT-SRでは、胚の染色体構造を解析し、正常または均衡型の胚を選択して移植することで、妊娠継続の可能性を高めます。

対象となる方

以下のいずれかに該当する方が主な対象です。

  1. ご夫婦のいずれかが染色体の転座または逆位などの構造異常を保有している方
  2. 染色体異常に起因する流産や不育症を繰り返している方
  3. 染色体異常が疑われる場合に、遺伝カウンセリングのうえで検査を希望される方

検査の目的

  • 染色体構造異常を持つ胚を除外し、妊娠継続率を向上させる。
  • 流産を繰り返す原因を明確にし、再発リスクを減らす。
  • 将来的に生まれてくる子どもの染色体異常リスクを低減する。

検査の流れ

  1. 採卵・受精
     体外受精または顕微授精で受精卵を作成します。
  2. 胚の培養
     受精卵を**胚盤胞(受精から5~6日目)**まで培養します。
  3. 胚の生検(バイオプシー)
     胚盤胞の外層(栄養外胚葉)から数個の細胞を採取します。胚本体(胎児部分)には影響しません。
  4. 遺伝学的検査
     採取した細胞を専門機関で解析し、染色体の数的異常を調べます。
  5. 結果説明・胚移植
     染色体異常がない胚を選択し、子宮に移植します。

PGT-APGT-SRの検査結果について

PGT-A/PGT-SRの検査結果は、以下の4つのカテゴリー(判定)に分類されます。これらの判定は、現時点の技術に基づく解析結果であり、検査の精度や解釈には限界があります。
これらの判定は、胚を移植するかどうかを検討する際の参考情報であり、実際の移植可否については、遺伝カウンセリングで結果をご説明したうえで、ご夫婦が最終的にご判断いただくことになります。

判定説明移植の目安
Aすべての常染色体が正倍数性(正常な染色体数)である胚。
染色体に異常が認められないと判断される。
✅ 移植可能
Bすべての常染色体が正倍数性とも異数性とも判定できない胚。
多くは、一部が異数性・構造異常をもつ細胞と、正常細胞が混在するモザイク胚。
検査上の誤差(アーチファクト)の可能性も含まれる。
⚠️ 慎重に検討(要カウンセリング)
C常染色体に明らかな異数性または構造異常が認められる胚。
染色体異常が着床や妊娠継続に影響する可能性が高い。
❌ 移植対象外
D検査を行ったが、解析が不十分で判定が得られなかった胚。⚪️ 判定不能

性染色体について

PGT-A/PGT-SRは、性別を判定することを目的とした検査ではありません。
そのため、性染色体に異常が認められない限り、胚の性別情報は医療機関にも開示されません。

また、性染色体(X・Y染色体)のみに変化が認められた場合には、
検査結果として「判定A」に分類されることがあります。
このような結果が得られた際には、遺伝カウンセリングにて個別に詳細をご説明いたします。

PGT-APGT-SRのメリットとデメリット

【メリット】

PGT-A/PGT-SRを受けることで、染色体異常をもつ可能性が低いと判断された胚を選んで移植することができるため、次のような効果が期待されます。

  • 胚の形態評価だけでなく、遺伝学的情報をもとに移植する胚の優先順位を決定できる。
  • 染色体数や構造に異常のない胚を選ぶことで、流産率の低下・妊娠率および出産率の向上が期待される。
  • 妊娠・出産の可能性が低い胚の移植を避けることで、妊娠・出産までに要する時間を短縮できる可能性がある。
  • 染色体異常に起因する疾患をもつ赤ちゃんを妊娠・出産する可能性を減少させることができると考えられる。

【デメリット】

PGT-A/PGT-SRは有用な検査である一方で、完璧な方法ではなく、現時点で不明確な部分も残されています。
そのため、以下のような点に注意が必要です。

  • PGT-A/SRを受けるには、必ず体外受精を行う必要があり、自然妊娠や人工授精で妊娠可能な方であっても、身体的・精神的・経済的負担が生じます。
  • 通常の不妊治療費に加えて、検査費用が別途かかります。PGT関連検査は**保険適用外(自費診療)**のため、体外受精・胚移植も自費での実施が必要です。
  • PGT-A/SRを行わなくても妊娠・出産できる可能性があるため、検査によって一部の胚を移植対象から除外することで、妊娠機会が減少する可能性があります。
  • 胚から細胞を採取(生検)する際に、胚へ微小なダメージが生じる可能性があり、これが着床不全や流産につながるリスクを完全には否定できません。
  • この検査では、**倍数性異常(全染色体が過剰/不足している状態)や微細な構造異常(均衡型転座・微小欠失など)**は検出できません。
  • 判定で「移植可能(A・B)」とされた胚を移植しても、妊娠に至らない、または流産する可能性があります。
  • 染色体異常以外を原因とする赤ちゃんの病気(遺伝子変異・環境要因など)は、この検査では分かりません。

費用・診療区分について

PGT(PGT-A/PGT-SR)はいずれも自費診療(自由診療)です。
体外受精、顕微授精、胚培養、胚移植など関連する治療費用を含め、保険診療との併用はできません。
詳細な費用については、初回カウンセリング時にご案内いたします。

当院の方針

当院では、PGTを単なる検査としてではなく、患者様一人ひとりの背景・治療経過・倫理的配慮を踏まえた包括的医療として位置づけています。
学会の指針に基づき、適応の有無を慎重に判断し、十分な説明とカウンセリングを経て検査を行います。
患者様が納得して治療を選択できるよう、医師・カウンセラー・培養士がチームでサポートいたします。

着床前診断(PGT-APGT-SR)をご希望の方へ

PGT-A/PGT-SRの実施を希望される方は、診察時に医師へその旨をお申し出ください。
また、PGT-SR(構造的染色体異常検査)をご希望の場合は、あらかじめ染色体検査の結果(ご本人またはご夫婦の結果)をご持参ください。

検査の内容や流れ、適応条件についての詳細は、
日本産科婦人科学会公式サイトに掲載されている説明動画でもご覧いただけます。
事前にご視聴いただくことで、検査への理解がより深まります。

関連リンク:
日本産科婦人科学会「着床前遺伝学的検査に関する説明動画」